Pがきえた

作: Hiroki ITO, 校正: Mikiyasu KOBAYASHI

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姫花「それなら駿よ、次は犯人にされかけた私からの質疑だ」

駿「犯人を特定するのに何かいい方策があるのか?」

姫花「いや、そんな大層なことではない。今、私が気になっていることを言うだけだ」

駿「と言うと?」

姫花「まず、プリンは本当にあったのか?」

駿「えっ?」

姫花「もしプリンが最初から無かったとすればどうだ? つまり桜が嘘をついているという話になるのだが」

姫花「もしくは、プリンはあった。しかし、桜かお主が食べた上で、無くなったと騒いでいる可能性もある」

駿「うっ……」

姫花「さっきから気になっていたのだが、駿、お主は桜が買って来たというプリンを見たのか?」

駿「いや、見ていないな」

姫花「私も見ていない。ということは、プリンを冷蔵庫に入れたと主張しているのは桜だけということになる」

姫花「そうではないか?」

駿「た、確かにそうだな」

この可能性は考えていなかった。桜があんまり悲しそうな顔をしていたもんだから、全く疑っていなかったぜ

いや、今でも疑ってはいないさ。ただ、プリンがあったことを確信できるだけの証拠は無い

駿「おい桜、レシートとか持ってないのか?」

せめてプリンを買ったことを証明できれば

レシートなら店名と買った品、それに購入日時が印字されているはずだ

桜「レシート? も、持ってないよ……」

駿「何か、プリンを買ったことを証明できるものは持っていないのか?」

桜「そ、そんなこと言われても……」

茜「ゴミ箱はどうだ? ゴミ箱にプリンのカップが捨てられてたりしないのか?」

駿「それですっ!」

なぜ真っ先にゴミ箱を調べなかったのだろう

犯人がプリンをボックス内で食べたとすれば、高い確率でカップをゴミ箱に捨てるはずだ

ところが、

瑠璃「そこのゴミ箱に入っていたゴミなら、今日、私が捨てちゃったわよ?」

駿「えっ……」

それでも一応、蓋を開けて中を改めてみるが、朝比奈さんの言う通り、ゴミ箱の袋はほぼ空になっていた

勿論、プリンのカップなどは見つからない

瑠璃「ゴミがたまってたから、16時頃にここへ来た後、出るときに大学の集積所に捨てたのよ」

なんてこった。貴重な手がかりが失われてしまったということか

姫花「ふむ、となると、格段に怪しくなったのは朝比奈さんじゃありませんか?」

瑠璃「えっ……」

姫花「プリンのカップ、それはプリンがあったことの証拠であると同時に、プリンが食べられたことの証拠でもありますね」

姫花「それを自らの手で、私たちが確認できない場所へ廃棄。これは、証拠隠滅じゃないですか?」

瑠璃「そ、そんな! 私は犯人じゃないわっ!」

なんてこった。朝比奈さん、それじゃまるで往生際の悪い犯人みたいな台詞ですよ

姫花「そういえば朝比奈さん、さっき入って来たとき、駿から『事件があった』と聞いてすぐに冷蔵庫の方へ行きませんでした?」

思い返してみる

そうだ、朝比奈さんはお茶を淹れる、と言って実際お茶を出してくれた

それには冷蔵庫から水を出したり、ゴミ箱に何かしらを捨てる作業も含まれたはずだ

姫花「それも、何か手がかりとなるようなものを消し去るためじゃなかったんですか?」

まさか、それが真実だというのか……

ならば次の言葉を言う役割は、辛く苦しいが俺が務めねばなるまい

駿「犯人は朝比奈さん、あなただったんですね……」

恐らく事件の真相はこうだ

普段の朝比奈さんが人のプリンを勝手に食べるなどするはずがないから、一時的に正常な意識ではなかったのかも知れない

プリンを食べた朝比奈さんは証拠隠滅のため、プリンのカップが入ったゴミ袋を大学の集積場へ運んだ

さらに、さっきここへ来た時は俺の言葉で事件発覚を知り、すぐに理由をつけて冷蔵庫の方へ向かった

そして自分の犯行が特定されるような手がかりが残っていないかをチェックした、というわけだ

だとすれば、今も朝比奈さんは正常な意識ではないはずだ。だから……

駿「朝比奈さん、正気に戻って下さいっ!」

朝比奈さんの肩を優しく掴んで俺は懇願するように叫んだ

しかし……

姫花「アホかっ!」

ガッ

なぜか山吹に怒られた

姫花「それだけで断定できるわけがないだろうがっ!」

いや、お前が言ったことじゃないか……

姫花「さっきは朝比奈さんの発言で私が犯人にされそうになったから、少し意地の悪いことを言ってしまっただけだ」

山吹も以外と器の小さい人間だな……

姫花「そもそも、お主と桜の嫌疑も晴れてはいないのだぞ?」

姫花「むしろ、そちらの方が怪しいと私は思うが」

そういえばそうだった。プリンがそもそもあったのかどうか、桜の言葉を信じる以外に証拠が無いのだった

そうなると、被疑者は3人ではない。俺も桜も被害者という特別な立場ではいられなくなるのだ

一体どうすればいいんだ?

と、ここで口を開いたのは……

ーーー

桜「じ、実は、プリンは駿のじゃなかったんですっ!!」

なんと桜だった

あまりに急な発言だったので、焦ってしまう

駿「お、おい、桜!?」

桜「桜が買って、桜が食べるはずだったんですっ!」

しかし桜の方は何か決意があるらしく、話すのを止めようとはしない

何故、今このタイミングで、それを言う???

茜「んっ? そうだったのか?」

俺以外の3人も急な話の展開に少々戸惑っているようだった

桜「はい、ただ私が自分で調査するのは気が引けてしまって……」

姫花「なるほど」

瑠璃「そういえば、そもそも駿くんってあんまりスイーツとか興味ないよね」

駿「え、えぇ……」

確かにそれを言われると、最初の設定が不自然であったことは否めない

茜「それで? 何故今になってそれを?」

そうだ、それが問題だ

俺は桜から頼まれて探偵役を引き受けたというのに、なぜ桜が自らその裏設定を話しだしたのだろうか

桜「えっと、よく考えたら桜、気付いちゃったんです」

瑠璃「何に?」

桜「駿が、あのとき駿が妙に親切だったなって……」

姫花「というと?」

なんか嫌な方向に話が進んでいる気がしてならない

桜「私が、プリンが無くなってる、って駿に言った時、すぐに駿が『今から俺が買って来てやる』って言ったんです」

瑠璃「そうだったの?」

駿「えぇ、まぁ」

姫花「うむ、確かにそれは変だな」

何が!? 兄が妹にプリンを買って来てやるというのはそんなに変か?

姫花「あぁ、それはそれはおかしなことだ」

桜「だからよく考えてみたら、あれは駿が桜のプリンを食べちゃったからじゃないかって思って」

なんと、桜の裏切りか。兄であるこの俺を信じてくれてはいなかったのか。お兄ちゃんカナシイよ……

駿「いや、確かにそう言ったけど。それは、桜が悲しそうな顔をしていたからで……」

茜「違うな。それは、自分が食べてしまったことで負い目を感じていたからだ」

駿「そ、そんな・…・」

茜「それに、さっき私たちにはボックスに入った時間とか細かく聞いていたが、自分のことを何一つ言っていないのは何故だ?」

茜「はっきり言って、駿、お前非常に怪しいぞ」

姫花「ホント、会長の仰る通りだな」

瑠璃「そうねぇ」

一気に窮地に立たされた。探偵役から最有力の容疑者へとシフトしてしまっている

瑠璃「それで? 駿くんは今日の午後に1人でボックスに入りはしたの?

駿「俺は、……ボックスには来ていません」

慎重に言葉を選んで話す。間違ったことを言ってしまっては、さらに疑われる原因になる

駿「18:15頃にここへ来たら桜がいて、それで普通に座って漫画読んでたらあいつが『プリン無い』って騒ぎだしたんですよ」

駿「ただそれだけですって」

とはいえ、朝比奈さんが出たという16:40頃から桜がここに来るまでの間は、皆の証言を信じればボックスが無人の時間帯だ

ボックスに来なかった、ということを証明するのは難しい

なんとかこの状況を打破しなければ……