Pがきえた

作: Hiroki ITO, 校正: Mikiyasu KOBAYASHI

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駿「さて、」

部屋の中央にあるテーブルの周りに座った4人を前に、話を切り出す

この中の誰かが犯人であると考えられる以上、慎重に行かなければな……

ところが、のっけから予想だにしないツッコミが入った

姫花「おい駿よ、『さて、』というのは、探偵が謎解きをするときに使うものだ」

瑠璃「えぇその通りね」

瑠璃「『探偵は事件の解決に至った場合、関係者全員を集め、「さて、」という語で推理を披露しなければならない』」

瑠璃「探偵規範15項にてそう定められているわ」

桜「そ、そうだったんですか! 初めて知りました」

騙されるな我が妹よ。そんな決まりはありはしない

朝比奈さんだって山吹に乗っかって冗談を言っただけだ

この人はよく嘘をつくけど、別に他人を騙くらかそうとしているわけじゃない

もっとも、桜のように鵜呑みにする人間も中にはいるわけだが

駿「はぁ……。では仕切り直しで」

こんなところで争っても仕方ない。山吹が煩いから「さて、」は使わないで話を始めることにする

駿「実は、桜が買ってここの冷蔵庫に入れておいてくれた俺のプリンが無くなったんです。だれか食べてませんか?」

本当は桜が自分で食べようと買ってあったものだが、話の中では便宜上、俺が食べる予定だったということにしておく

その新作プリンの特徴については、予め桜から聞き出してある

茜「プリン? それが事件なのか?」

まぁ、もっともな反応だ

俺もそうだが、会長はあんまりスイーツとか興味ないしな

俺だって桜があんな悲しそうな顔をしなけりゃ、別にプリンの1つや2つ、無くなったところで騒ぎはしない

駿「えぇ、プリンはプリンでも、ただのプリンじゃないんです」

駿「ラ・プレヌ・リュンヌの1日50個限定な新作プリンなんです!」

俺、どんだけプリン好きな設定なんだ

姫花「ほぉ、ラ・プレヌ・リュンヌの新作プリンとな」

瑠璃「それは食べてみたいわね♪」

俺に言ってくれたら毎日並んで買いますよ、朝比奈さん!

どうやら朝比奈さんと山吹の2人は、店名と"限定"というワードで今回紛失したプリンの価値を理解してくれたようだ

駿「というわけで、俺のプリンを勝手に食べてしまった犯人を今から見つけ出したいと思います」

茜「なるほど、理解した。では駿、お前が探偵役ということだな」

駿「はい」

ここからが実際の調査開始となる

ーーー

駿「ではまず、幾つか前提条件を確認したいと思います。桜、記録を取って」

桜「おーけー」

俺の後ろにあるスクリーンに、桜が操作するコンピュータの画面が卓上プロジェクタで映しだされる

駿「条件1:この部屋が無人の際には扉と窓には鍵がかかっていて、鍵を持たない人間が侵入することはできない」

駿「条件2:この部屋の鍵を持つのは、今ここにいる5人のみである」

駿「……以上の条件に異論はありますか?」

茜「問題無いだろう。少なくとも私は戸締まりはしっかりしてる」

瑠璃「もちろん私もそうよ♪」

姫花「うむ」

駿「桜も無人のまま開けっ放しにしたりしていないよな?」

桜「当たり前じゃん。今日の昼にプリンを冷蔵庫に入れた後も……」

駿「入れた後も?」

桜「あっそうか。うん、桜は鍵かけなかったけど姫ちゃんがいたんだった」

なるほど。それなら問題ないな

駿「それでは条件1と2は確定ということで」

茜「んっ? ちょっと待て。確認するが、プリンを冷蔵庫に入れたのは、今日なのか?」

桜「そうですが……何か気になる点でも?」

茜「いや、続けてくれ」

瑠璃「うーん、ということは、外部犯の可能性は否定されるわけね」

駿「そうなりますね。要するに、この中に犯人がいることになります」

全員がうなずく

よし、次にすべきはアリバイの確認となるだろう

駿「では1人ずつ、今日の昼休みに以降にボックスに入ったことがあるかどうか尋ねたいと思います」

ーーー

駿「まずは、そうだな、桜がボックスを出るときにいたという山吹、どうなんだ?」

姫花「どうもなにも、その通りだ」

姫花「私は確かに桜と一緒に昼食を摂った。そして先に出たのは桜だな」

駿「桜がプリンを冷蔵庫に入れた時、山吹はその場にいたのか?」

姫花「さあな。ただ言えるのは、先にボックスに来ていたのは桜の方だということだ」

駿「そうなのか、桜?」

桜「うん。えっと、確か桜がここに来たのは、12:30少し前かな」

桜「それで冷蔵庫にプリン入れて、買って来たパンを食べてたら、姫ちゃんが来たんだよ」

駿「桜が冷蔵庫にプリンを入れるところを山吹は目撃していないと、つまりそういう事だな」

桜「うん、そうなるね」

なるほど

姫花「もっとも、別に桜の行動を監視していたわけではないのでな、私がいたときに桜が入れた可能性も否定はできないが」

それはそうかも知れない。だがそれはさして重要な論点ではなさそうだ

駿「それで、部屋を先に出たのは桜の方だったと。間違いないんだな?」

姫花「あぁそうだな。私は3限の講義が無かったからな」

姫花「桜が講義に出ると言って出て行った後も、ボックス内にしばらくいたぞ」

駿「その間、1人だったのか?」

姫花「そうなるな」

桜がプリンを冷蔵庫に入れた後、山吹が1人でボックスの中にいたということは、つまり、誰にも目撃されず犯行が可能だったと言える

駿「それは何時までだ?」

姫花「うむ、4限は私も講義があったからな、ここにいたのは14:40頃までだろうな」

姫花「その時ここを出てから、さっきお主ら兄妹がいるときに入るまでは、ボックスには立ち寄っておらんぞ。……それと」

姫花「私がボックスを出た時間については、会長が証言してくれると思う。なにせ、出るときに会ったのだからな」

何だって!?

それではつまり、会長もこのボックスに、それも(山吹が食べていなければ)プリンが冷蔵庫にある時間帯に来ていたということか!

ならば、次に確かめるべきは会長の行動か

その前に一応、聞いておくか

駿「とりあえず聞くだけ聞くが、山吹は桜が買って来た俺のプリンを食べたか?」

姫花「いや、勿論食べてはおらぬ。……と宣言しておこう」

そりゃそう答えるだろうな

ーーー

続いて会長の証言を聞くことにする

駿「会長、14:40頃にボックスから出て来た山吹と会ったというのは本当ですか?」

茜「確かに会ったな。3限の講義が終わってここに来たから、時刻もそのころじゃないか?」

茜「別に時計を確認したわけではないから正確ではないが」

駿「そうですか」

となると、山吹に加えて会長もこのボックスに来ていたというのは確かそうだ

山吹と会長が示し合わせて嘘をついているというのなら話は別だが、わざわざ疑われるような嘘を吐く必要は無いだろう

駿「それで、会長はいつまでボックスにいたんですか?」

茜「そうだな、4限の間だから、16:20過ぎくらいまでだと思う」

山吹と入れ替わりでボックスに来て、会長も同じくらいの時間いたということか

駿「その間はずっとボックスにいたわけですね」

茜「そうだ」

駿「では、誰かが入ってくることもなかったと?」

茜「あぁ。……いや、外部の者が来はしなかったが、朝比奈なら来たぞ?」

なんと! 朝比奈さんまでボックスに来ていたのか……

駿「それは何時です?」

茜「何時ごろだったかなぁ……。朝比奈、覚えてるか?」

瑠璃「そうね、16:00前後だったと思うわ」

駿「それで? 朝比奈さんは会長がいる間にボックスから出たんですか?」

茜「いや、私の方が先に出たな」

そうだと思ったよ。なんか話がややこしい方向に……。いや、逆にシンプルか?

駿「それでは会長にも尋ねます。冷蔵庫にあったプリンを食べてはいませんか?」

茜「あぁ、無論だ」

この質問に意味なんかないことは分かっているが、一応である

それじゃ最後、朝比奈さんにもボックスにいた時間を聞こうか……

ーーー

駿「それじゃ朝比奈さん……」

瑠璃「そうねぇ。私は16:40くらいまでいたかしら。私が出るまで、誰も来たりしなかったわよ?」

瑠璃「出る時も誰かに会ったりはしなかったわ。だから私が鍵をかけた。間違いないわ」

駿「そうですか」

駿「俺と桜がボックスに入ったのが18:15頃だから……」

駿「その間、16:40頃からその間にここに入ったという人はいませんか?」

誰も口を開かない。本当にいないのか、それとも犯人が黙秘しているのか……

とりあえず、桜と姫花、会長に朝比奈さん、各々がボックスに出入りした時間は、本人ともう1人による証言がある

ただし朝比奈さんが部屋をあとにした時間と、桜が昼にボックスに入った時間については本人の証言があるのみだ

駿「それでは、朝比奈さんへの質問は以上です」

ふーむ、どうしたものか……

茜「ちょっと待て駿、なぜ朝比奈にはプリンを食べてないか尋ねないんだ」

茜「確かに聞いたところで仕方ない質問ではあるが、私と山吹にはしておいて、なぜ朝比奈にはしない?」

駿「探偵の勘ってやつですかね」

ふっ、朝比奈さんが犯人なわけないじゃないか……

姫花「釈然とませんが、別によいのでは?」

姫花「会長の仰る通り、してもしなくても大して意味のある質問じゃありませんし」

茜「まぁそうだな。しかし……いや、まぁいいだろう」