いくらなんでもちゃちすぎる

 一人暮らしを始めて8年目になるが、私は自分の郵便受け (マンションの玄関ロビーにあるやつ)に鍵を取り付けたことが無い。その理由としては、まず第一に郵便の出し入れが面倒になるということが挙げられるが、稀に郵便受けの扉を開けないと入れられないような荷物が届くから、という理由もある。これは特にコンピュータの部品などをインターネットで海外から購入したときに多い。国内のサービスで本当に重要な郵便物、例えばクレジットカードなど、はそもそも書留で送られてくるので、郵便受けに鍵をかけなくても問題は無い。……いや、実際には問題あるのだが、利便性と秤にかけた結果、鍵を取り付けていないのである。

 ところが先日、コンビニへ買い物に出る途中、ふと郵便受けを確認しようとした私は驚いた。なんと、私の郵便受けの扉に鍵が取り付けられていたのである。無論私は取り付けた覚えが無い。誰かが勝手に、私の郵便受けに鍵を取り付けていたのである!

 とりあえずアイスを食べたいという欲求を満たすため、先にコンビニへ行きアイスを購入した私であったが、部屋に戻ってアイスを食べながら考えてみると、これはどうにも腹立たしい。法律上の詳しいことは分からないが、もし私が住んでいる部屋に誰かが勝手に侵入したり、あるいは誰かがドアを何らかの方法でロックして私が出入りできないようにしたとしたならば、よほど正当な理由が無い限り、逮捕起訴されるレベルの犯罪である。そして私の部屋が私の権利下にあるのと同様、私の部屋の番号が付された郵便受けは、たとえそれがマンション玄関の共用スペースにあろうとも、私の配下にあるはずであり、その中に入れられた郵便物も、私の所有物である。たとえマンションの管理会社であろうとも、私の許可無く郵便受けからものを取り出したり、それを塞いだりすることは許されないはずだ。

 まぁ恐らくは、誰かが間違って取り付けてしまっただけで、悪意は無いと考えるのが精神衛生上良いのであるが、私には人から悪意を持たれる理由が無くもない。故意のいたずらである可能性もゼロではないのだ。となるともう一度、その勝手に取り付けられた鍵を改めておく必要があるだろう、と私は考えデジカメを持ってマンションの玄関ロビーへと向かった。

 鍵のかけられた郵便受けの写真を何枚か撮った後、鍵や郵便受けの扉を調べてみると、まず鍵は3桁のダイヤル錠であった。他の入居者が付けているのと似たサイズの小さな錠であったが、同じデザインのものは、私以外の入居者の郵便受けには見当たらなかった。また、郵便受けの扉は閉じた状態でも開放部が広く、棒や針金をつかえば容易に中の郵便物が取り出せそうであることも分かった。これなら中の郵便物が取り出せなくて困る、という事態は避けられそうだ。それにしても、ダイヤル錠が3桁というのは御粗末だと私は思う。3桁ということは、1000通り試せば開いてしまうということだ。1回の試行にかかる時間を2秒とすると、全ての組み合わせを試すのに2000秒、30分強である。実際には、平均して半分の時間で解錠できることが期待できるので、およそ15分程度しか持たないということになる。さらに言えば、一般的なダイヤル錠は人が手で操作する関係上、例えば施錠する際に全ての桁をランダムに移動させるということをしない、などの習慣によって、期待される最大強度に達しない場合が多々ある。

 そこで私は、思い切って番号の分からないダイヤル錠の解錠に取りかかった。特に予備知識は無かったが、ダイヤル錠の構造を想像するに、1000通り試さずとも効率よく解錠する方法を思いついたのだ。それを実際に試してみると……

 1分足らずで開いた。

 「いくらなんでもちゃちすぎるだろ!」

 これはヒドい……。詳しい方法は記さないが、単にダイヤルが1つしか動かされていなかった (この場合は最大30試行で解錠できる)とか、解錠する位置から全て同じだけ3つのダイヤルが動かされていた (この場合は最大10試行で解錠できる)、というわけではない。これは一般的なダイヤル錠の仕組みそのものというよりは、私の郵便受けに取り付けられていたダイヤル錠の精巧さに関する問題である。ともかく、こうして郵便受けに勝手に取り付けられていたダイヤル錠は解錠できたわけだ。

 次の日私はマンションの管理会社へ電話し、取り外した鍵を本来の持ち主に返したいという名目で、調査を御願いした (郵便受けのある玄関には監視カメラがあるので、その気になれば怪しい人物の画像を得ることは可能なはずである)。一週間経った今も音沙汰がないのできっと管理会社はまともな対応をする気がないのだろう。近々次の手に出る予定である。

 ちなみに、私はiPod touchの解除キーもデフォルトの4桁から6桁にしている。毎回入力するのは確かに面倒であるが、個人情報のいっぱい詰まった電子機器なので、それくらいの措置は必要であろう。4桁から6桁にするということは、単に解除までの平均試行回数を100倍にするという意味もあるが、iOSは決まった回数以上のロック解除試行に対して、内蔵データの削除という手法で情報漏洩を防ぐ仕組みがあるので、面識のない人に拾われた場合を想定してというよりは、パスワード解除をする際に手元を見られて、というパターンを想定しての措置である。

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