勉強します

 最近、ステーキを焼いて食べることが多いのだが、肉用のテーブルナイフを持っていなかったので、近所の商店へ買いに行った。その商店は主にグラスを扱う店で、テーブル用品一般も売っている。私が知る限り、少なくとも3,4年前から店頭に閉店セールの文字を掲げている小さな店であるのだが、入店するのは今回が始めてである。

 店番をしていた初老の女性に訊ねたところ、その店で最も安い肉用のナイフは、1本350円のものだということであった。私がそれを6本買いたいと言うと、在庫を調べてくれたのであるが、その350円/本のナイフは袋に入った在庫が4本、見本の1本を加えても5本しかなかった。それなら5本でも構わないのでそれを購入する、と言うと、その女性は、「勉強させてもらいます」と繰り返し言って、5本を1500円で売ってくれた。

 この初老の女性が用いた「勉強(する)」という表現が、商売で使われるとき「値引する」という意味であることは、もちろん知識としては知っていたが、実際に聞くのは初めてであった。普段はスーパーマーケットやコンビニなど、交渉による値引きというシステムが無い店で買い物をしているので、この表現に出会う機会が無かったのだ。またそもそも、私は買い物をするときに値引き交渉というものをしたことが無い。今回はたまたま、買った場所が個人商店で、購入数が複数、そして見本品含む、という条件が重なったため、店員の方から値引きを申し出てくれたわけである。

 よく考えてみると、「勉強」の漢字二文字には、どちらにも「学習」に関係する意味合いは無い。だから熟語の構造的には、より一般的なstudyよりも、少ない利益で取引をする、の方が用法として正しいような気がする。

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