「絵師は安すぎる賃金で働いてはいけないというのは甘えじゃないの? – rebamakiの日記」
の記事を読んでなかなかに感銘を受けた。いや、賛同の方が正しいか。私も常々考えていたことである。
この記事に対するコメントで「横から失礼」というHNの方(最低賃金の設定が必要であるとの立場)が、こんなことを書いている(以下のコメントが同一人物によるものかは厳密には不明)。
(1)
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「適正賃金の要求」は甘えなどではなく、業界を守る為に必要な事です。
市場原理によって賃金が必要以上に下がり続けると後継者不足が起き市場が衰退します。
ツイッターにも例に出ていましたが年金をもらっている高齢者が安く仕事を受けるせいで衰退している業界はかなりあります。
例えば農業もそのひとつです。
きちんと賃金のもらえない市場には若者は誰も寄り付かなくなるのです。
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(一部改行を削除)
(2)
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まぁ最低賃金を否定される方はどうぞ主婦や老人や学生のみが描く画一的かつ低レベルな絵だけがあふれる世界を楽しみにしていて下さい。
市場に金がなくなり、母数が減ると恐ろしく衰退しますよ。
翻訳業界などが身をもって体現してくれてます。
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(一部改行を削除)
今回はこれに反論したい(以下を読む前に、前述の記事全部を読むことを強く薦める)。
まず(1)の「業界を守る」あるいは「後継者不足が起き(る)」ということに関してだが、絵を描く技術に関してはWEB上なり書籍なりでノウハウがかなり蓄積されているので、絵を描く文化が完全に失われるということはありえない。またプロの製作した作品も腐るほど現存しているので、初心者が目指せる「上」が無くなる、ということもありえない。職業として絵を描いている立場の人からすれば、所得を生むために必要な「業界」が衰退するのは痛手だろうが、絵の文化そのものが衰退するとは思えない。そもそも、私は別に次々と新しい商業漫画が連載されなくても構わないと思ってるし、アニメだって新しいのをどんどん放送するから観てるだけで、製作されなくなれば、過去の作品をDVDで借りて観ればいいと思っている。「業界を守る」というのは要するに、「消費者に金を出しつづけさせる方法を確保する」ということである。
また(1)で農業が「高齢者が安く仕事を受けるせいで衰退している」と書かれているが、これは大いに結構なことである。高齢者が安い報酬で農作物を生産してくれるなら、消費者はより低価格で食品を手に入れることが出来るのだ。若い人が同じ賃金でやっていけないというのなら、別の仕事を見つければいいのである。
次に(2)で、「主婦や老人や学生のみが描く画一的かつ低レベルな絵だけがあふれる世界を楽しみにしていて下さい」とあるが、私はむしろ商業一辺倒より趣味でやる人が増えた方が、多様性が増すと考える。常識的に考えて、商業的な絵というのは、商業として成り立つ対象に向けて、商業的に成り立つ手法でのみ生産されるが、趣味的な絵というのは対象の数(あるいは有無!)や費やす時間と労力をある程度無視して作成されるからだ。そして「主婦や老人や学生が描く」絵が「低レベル」かどうか判断するのは私にはできないし、おそらく誰にもできないだろう。ただし、ここ言う「レベル」に、定期性や完全性とういものが含まれるなら、その点については商業作品が圧倒的に優れていると思う。
……というわけで、私は記事本文の内容に概ね賛成であるし、コメント欄で議論している人であれば「TOMOTAKA」さんの方に賛成である。別に「横から失礼」さんの意見が「甘え」だとは言わないが、現状への理解が足りていないのと、周囲の状況変化に対する適応力が不足しているように思う。
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