「さらさらきらきら: キノボリトカゲ」(2012.7.19)
(2015/3/9 追記)
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Blogを移転した模様。
「キノボリトカゲ – さらさらきらきら」
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今から、夜泣石さんという方が書いた上記の記事に対して反論を書く。
まず初めに概観すると、記事を書いている夜泣石氏の主張は主に、「キノボリトカゲって九州南部にもいるんだよぉ♪ キノボリトカゲってカッコいいよね、ぁたし大好きなんだー。移入種だから駆除しましょーとか言ってる研究者がいるらしぃけど、別に害も無いしぃ~研究者とかクソ喰らえだから~、駆除とかちょ~ありえないっていうかぁー!」ということだろうと考えられる。どうも中途半端な知識だけで批判中傷をしているようにしか思えないので、以下に夜泣石氏の文章で間違っていると思うところを列挙する。
1.
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ここのキノボリトカゲは沖縄などから移入された園芸植物に紛れ込んでいたものらしいと言われている。だから人為的だと非難されるのだが、しかし本当のところは誰にも判らない。いやそれより人為と自然と、厳密に区別できるのか。またその必要があるのか。
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→厳密に区別することは確かに難しい。しかし、可能性の高低を論じることは可能である。キノボリトカゲであれば、海を越えて分布域を広げるとなると、流木にしがみついて漂着するというシナリオが考えられるが、潮の流れがどれくらいでキノボリトカゲの生命力がどれくらいで、ということは実験的に調べることができる。あるいは経験的に考えて、これまで移入していなかったものが、ある時を境に急に見られるようになったのはなぜか、と考えた結果、これは人為的に移入した可能性が高い、と結論づけられるのである。その区別の必要性については、次の部分で書く。
2.
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外来生物は生態系を乱すと学者たちは主張する。しかし生態系は常に移り変わるもの、そして生き物たちは混ざり合うものだ。今現在も刻々と変化している。乱すという発想自体がおかしいのではないか。いったいいつの時点で固定化するべきだというのか。生態系の保全なぞを金科玉条としてただ妄信しているだけではないか。だいたい植物においては我々の身の回りのものはすでにその過半が外来種だ。それがもう新しい都市の自然になってしまっている。それなのに一部の動物だけ問題にしてもしかたないだろう。
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→確かに生態系は常に移り変わる。だからある時点を自然の基準と考え、そこから外れたものを不自然とするのは、便宜上は仕方ないとしても間違いであると言える。そこまでは正しい。ただこの夜泣石氏は、まず生物多様性がどういった価値を持っているのか、そして生態系が人間活動の影響によってどれほどの影響を受けているのか、という点について認識が甘い。人為を介さない自然の移り変わりの速度と、人間活動に影響を受けた変化の速度は全然違うということを認識した方がいい。また後半についてであるが、外来植物についても駆除は行われている。ただし動物/植物の区分に限らず、それぞれ優先度の違いは存在している。キノボリトカゲは昆虫やクモなど広範囲な種を捕食することから、生態系に与える影響は大きいと考えられる。
3.
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もちろん、マングースやブラックバス、あるいはヤギなど明らかな弊害が出ているものは駆除しなければならない。しかしキノボリトカゲにそんな危険はあるのか。本土のトカゲ類で木の上で暮らすものなどいないから在来種との競合は考えられない。餌はアリを主体とした昆虫類。アリを食べられて困る人はいないし食べられて絶滅するようなアリもいそうにない。そもそも木の表面に棲んでいて絶滅の危機に瀕しそうな昆虫などいたら、樹木の伐採や殺虫剤散布などをまず先に取り締まらなければおかしい。それらの方がキノボリトカゲの捕食などよりはるかに打撃は大きいはずだ。
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→在来種との競合がないかどうかはさておき、競合が無いからOKということには絶対ならない。木の上で昆虫を食べる動物(トカゲ類に限定しなければ、こんなもんが九州南部に在来種で存在しないわけはないのだが)が仮にいないとすれば、当然その環境でぬくぬく増えて繁栄している(キノボリトカゲからすれば被食対象になる)生物がいるはずである。そもそも、島嶼の稀少種で生息域が限られている生物は、多くが「今の生息場所に天敵がいなかったから」という理由で生き残っているのである。キノボリトカゲの主食がアリかどうかは怪しいが、幅広い昆虫類を捕食可能なことは飼育から明らかなので、夜泣石氏は困らないとしても、減れば誰かが困る生物をキノボリトカゲが食べて減らしてしまう可能性は十分にある。樹木は普通、庭木なんぞを除けば勝手に伐採できるものじゃないし、その為に保護林をいっぱい作っているのだ。保護地域を設定すれば樹木は保護できるが、その保護地域にキノボリトカゲが入らないようにすることは困難だ。そんなことも分からないのか。
4.
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初めて見つかったのはもう10年以上も前で、当時は大繁殖すると騒がれたものだが結局そうはならなかった。
……
駆除というのは皆殺しするということだ。それでも何か害が出ているのなら、万物の霊長の身勝手ではあるが仕方ない。しかし何も起きていないのに、もしかしたらいつか生態系を乱すかもしれないというだけで殺してしまえというのは驕りすぎではないか。
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→Wikipediaによると、ブラックバスが日本に持ち込まれたのは1925年。しかし、その影響が理解されて実質的な手段が初めて講じられたのが1965年(神奈川県が条例で移植を禁止)、特定外来生物に指定されて全国的な措置がとられる2005年まで80年もかかっている。言いたいことは分かるよね?
5.
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キノボリトカゲに関して日本爬虫両棲類学会が要望書をまとめて政府や自治体に提出している。「生態系・生物多様性に少なからず悪影響を及ぼすことが強く懸念される」として、これらの「除去、あるいは封じ込め等の適切な対策」を取れ、「再発防止を徹底」しろと結んでいる。これは結局、調査や駆除に予算を付けろということだ。その仕事は彼ら専門家が請け負うことになる。うがった見方をすれば、国民の無知に付け込んで判りもしない危険をさも本当のことのように、また針小棒大にあげつらって金をせしめようという魂胆だといえる。
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→実際に対策をとるのかどうか、それは要望を受けた地方自治体が決めること。地方自治体は住民の選挙によって選出された人間が管理している。ある学者は地震の危険性に詳しいが、疫病についてはあまり知らないかもしれない。それぞれの分野の人間が、それぞれ必要と思う提案をする。その提案自体を否定するとは、人間社会そのものを否定しているのと変わらない。ばーか。
6.
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そもそも研究者など非常識で狭量、自分の業績のためには見境などない連中も多いのだ。研究のためにと或る地域で大量に捕獲して、数年後に行ってみたらまだ個体数は回復していなかったと、自分の徹底ぶりを自慢げに話す研究者がいた。最高ランクの絶滅危惧種を見つけて根こそぎ採集して標本にしてしまった高名なシダ学者もいた。ここは国立公園の範囲外だからいいんだとうそぶいていた。こうした研究者による採集圧が希少種の絶滅に拍車をかけていると言われているくらいだ。生態系の保全などよくも言えたものだと思う。
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→まぁそういう研究者もいるだろう、実際。ただ5.でも書いたように、研究者といっても分野が色々ある。保全生態学者なら保護地域を増やすことを提言し、人間が手を入れない自然環境を最良とするかもしれないが、生産植物学とか寄りの生態学者なら、生物資源の有効活用を推し進めようとするだろう。分類学者は分類さえできればいいので、標本を作ることこそ正義と信じているように思われる。つまり言うなれば、「人生色々、研究者も色々」なのである。夜泣氏の主張は「○○県人って馬鹿ばっかだよな、ほらアイツとかアイツとか」というのと大差ない。揚げ足とったつもりだろうが、とんだ勘違いである。
以上、とりあえずこの記事における夜泣石氏の文章は読んでいてこっちが恥ずかしくなるくらい無知をさらけ出しているので、長々と批判を書いてしまった。元の記事もある程度長いので、私の記事内に該当する部分を抜き出して載せるという手法を取ったが、引用の範囲は超えていないと考える。まぁ、生物の保護や人間との関わりについて考える上で、読んで損はない。
私の反論にさらに反論したい場合は、ご自身のサイトに内容を掲載した上で、この記事へのコメントか、メールで知らせてくれたら、私もすぐ読むようにしたいと思う。