グアム生物観察記 [1日目]

Hafa Adai!

 家族とグアムに4泊5日で行ってきた。私にとっては旅行≒野外調査なのであるが、今回は普通の家族旅行である。妹などはショッピングが目当てだし、両親もせいぜい海で熱帯魚を見て楽しむぐらいで、旅行先で昆虫を探そうなどとは当然考えていないし、カエルやヘビの出る山に入ろうとも思っていない。なので、普段の採集旅行と同じように生物を観察することは難しいと予想された。第一、私にとってもグアムは初めての地であるので、慎重な行動が求められる。観光地で日本人がうじゃうじゃいるとは言え、銃社会のアメリカ合衆国領である。夜中に一人で出歩くなど危険極まりない。

 ……と思ったのであるが、私の内なるところより湧き出る好奇心が打ち勝ち、初日から深夜徘徊を決行することにした。

・1日目

 家族が寝静まった後、現地時間で23:30頃であるが、ホテルを抜け出し夜のグアムへと繰り出した。さて、私が宿泊したホテルはグアムのホテル街でも端の方にあり、静かなところであった。これは悪く言えば不便で寂しいところということになるが、生物を探すのにはむしろ好都合である。その後の観察から推察したことであるが、ホテルやショッピングモールの周辺は、よほど気をつけて殺虫剤や農薬を用いているのか、ゴキブリなど街中に現れる害虫があまり見受けられない。私のような人間が排水溝やら路地の暗がりやらを注意深く観察してなかなか見つけられないのであるから、普通の人がブランド品の並ぶ店先に目を凝らしている分には、そういった虫と出会わずに旅行を終えることも可能だろうと思う。……大分説明が長くなったが、私はホテルを出発し、片道2車線道路の脇をひたすら歩いた。幸い歩道は広く、街灯も十分狭い間隔で備えられていたので、懐中電灯無しでも(無論、持っているが)難なく歩ける具合であった。道の脇には一般的な民家もあれば、小料理屋もあり、そういったところは庭先の芝も綺麗に刈られているのであまり私の求める生物の匂いはしないが、ところによっては空き地になって潅木が茂っているところもあり、そういったところであればヘビがひょっこり道に顔を出しても不思議は無いように思えた。しかしながらそうそう街中でヘビが出現するわけもなく、草むらでは途中ヒルを1匹見つけただけ、また街灯で極小型のカミキリムシを1匹発見しただけで、ホテル街を完全に抜けた海沿いへと出てしまった。ちなみに街灯であるが、雨季の熱帯地方としては不思議なくらい虫が飛んできていない。蛾などが沢山飛んで来ていれば、その一部は街灯の近くに落下し、それを求めてヤモリやGround Beetleの類も集まってくるというものなのだが。ところが、ホテル街を抜けたとたん、これまで道の脇にあったのと同じような芝生の広場に小型のゴキブリが大量にいるのを私は発見した。いや、実を言うとその前に朱色の綺麗なヤスデ(これも小型である)が道の脇にいるのを見つけ、それをライトで照らしたところ、その付近にゴキブリがいたのである。同じよう見える芝生でも、何か他の場所で使っている薬剤を使っていない場所なのか、あるいは他の場所には無い餌が近くにあるのか、とにかくオガサワラゴキブリがうじゃうじゃいるのである。1平方メートルのプロットを張ったら、5匹はいる。終齢幼虫と成虫が存在していた。ところで、オガサワラゴキブリと聞くと日本の小笠原諸島が原産のように思えるが、ただ単に日本では小笠原で早くに発見されたため和名にオガサワラの名を冠しているのであり、移入種である。日本では沖縄本島や八重山を含めた南西諸島の多くでこの種を見ることができる。ゴキブリ類の原産地に関しては、特に広範囲に移入しているものは特定が難しいのであるが、グアムが海洋島であることを考えると、ここでも外来種であると考えるのが妥当であろう。……また説明が長くなってしまったが、私はすぐにオガサワラゴキブリと美しいヤスデを写真に収め、更なるゴキブリを求めて歩き出した。ゴキブリのような生き物は似たような種類がごちゃごちゃと活動している、というのは間違った考えで、同所的に存在する分類的に近いゴキブリでも、細かな空間利用に関してはしっかり種ごとに別れているということがある。であれば、ある種のゴキブリが固まっている場所の近くに、別のゴキブリが群れている場所があるということは十分に考えられる。そういった場所が無いか、私は注意深くライトで地面を照らしながら前かがみで歩いた。と、その時、何か人の声がした。そりゃまぁ街中だから、人の声ぐらいはするだろうが、顔を上げてみるとどうやら私に話しかけているらしい。が、何を言っているのかさっぱり分からない。相手は30歳くらいの男性で、長身長髪でラフな格好の怪しい感じである。しばらくすると私が旅行者であると理解したのか、”Flashlight! Flashlight!”と言い始めた。どうやら、私の懐中電灯を貸せと言っているらしい。恐々近づいて話を聞いてみると、どうやらこの男性は自分の車の鍵を失くしたらしい。なるほど、男性のものと思われる車が街灯の下ではなく暗いところに停めてある。まぁいいかと思い使っていたマグライト 2AA LEDを渡すと、男性は車の付近を探し始めた。男性が身振りを交えながら説明するところによれば、彼は車の鍵を駐車場で放り投げたらしい。なぜそんなことをしたのか意味不明であるが、私は早くマグライトを返してもらいたかった(男性に近づく際、私は足元を走り去る大型のゴキブリ(明らかにオガサワラでない)を目撃している)ので、別に持っていたiPod touchのライトも使い、一緒に鍵を探しつつ先ほど見た大型のゴキブリが何かを確かめにかかった。結局、鍵は男性が発見し私はワモンゴキブリの巣窟を発見した。オガサワラ+ワモンというこれ以上ないほどつまらないcommon invederの組み合わせであるが、まぁ実際に現地で観察したということには多少の価値があるだろう。この日はそれで満足してホテルに戻ることとした。その他に発見した生物というと、沖縄本島でも大量に見られるアフリカマイマイと思われる陸生貝、徳之島で沢山みたことのあるアシヒダナメクジ、と移入種のオンパレード。そして大きめのカニ、そんなもんである。

→「グアム生物観察記 [2日目]」へ続く

(写真は近日中にArtCreatureの方に掲載します)

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