少し前の話になる。カエルを採集するべく、私が一人で瓜生山を登っていたときのこと。私の後ろから、とんでもなくデカい犬を連れた女性が登ってきた。犬種は分からないが、顔の高さは私のへそくらいだったと思う。おそらく犬の体重は私以上で、本気で襲われたらまず勝てないと思った。とはいえ、その犬を連れている女性は一般的な体格、つまり私よりも小柄である。多少引っ張られている感はあれど、きちんと犬を御せていることからして、躾のしっかりされた犬なのだろうと推察した。白い毛も綺麗で、手入れされているらしい……。などと考えていたところ、
「犬、大丈夫ですか?」
と話しかけられた。まだずいぶんと離れている段階で、犬を連れた女性の顔もよく見えないくらいの距離から尋ねられた。私は多少どぎまぎしながらも、
「ええ、大丈夫です。大きいですね」
と女性の胸元、ぐらいに頭部があるその犬を見ながら言った。私は犬好きではないが、別に苦手というほどでもない。私を追い抜いて行く途中、そのでかい犬は私の服の匂いを嗅ぎはしたし、多少鼻先を擦り付けるくらいはしたが、舐められることも、もちろん噛みつかれることもなく、普通に通り過ぎた。
私はこの時、犬を連れたこの女性のマナーに感心した。大きい犬を飼っているから普段から気をつけていたのだろうとは思う。確かに、犬が怖い人からすれば、近くに寄られた場合、卒倒してもおかしくないでかさだ。トラブルに発展する可能性もある。ただ、これだけ大きな犬を飼育しているということは、この女性は相当な犬好きだろうとも予想できる。ある特定のものが好きな人間というのは、それを嫌いな人がいるということを、認めなかったり、あるいは知ろうとしない場合がある。「○○はこんなに可愛いのに(美味しいのに)、嫌いな人がいるなんて信じられない!」という具合にである。もしくはそこまで行かずとも、「○○がダメとは言っても、少しくらいなら大丈夫だろう」などと相手の嫌い度を過小評価してしまう可能性はある。
実は私もそうで、ゴキブリなどという、犬よりもっとヤバげなものを扱っておきながら、安易な気持ちでケースから出して人の近くに持って行く、といった行為をすることがあった。実際のところ、ゴキブリは毒を持っているわけでもない(病原菌を持っている可能性はある)し、普通は噛みついたりもしない。せいぜいが、服と体の隙間に入ってもぞもぞしたりするくらいである(もっとも、実際に腕を歩かせてみれば分かるが、大した気持ち悪さではない)。とはいえ、ゴキブリに驚いた人が慌てて逃げようとして怪我するなど、想定される危険を考慮すると、ゴキブリが苦手な人にゴキブリを近づける、といった行為は当然ながらよくないだろう。私も少し気をつけようと思った。
要するに、何でもかんでも自分を基準にして考え、他人と接するとトラブルの元なのだ、ということを改めて考えさせられた。ゴキブリの場合、捕まえて怒られることはほぼ無いが、飼育したり生きた状態で運搬する際は特に注意が必要である(他の動物でも同様だが)。
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