年末に祖父の家へ行った際、母と妹と私で、近くのスーパー銭湯へ出かけた。父は要介護の祖父を風呂に入れると言って残ったので、男湯へは私一人で入ることとなった。私は1時間も入れば十分満足なのだが、妹がもっと長く入りたいと主張したので、2時間後に出口で待ち合わせることになった。
このスーパー銭湯は比較的規模が大きく、露天風呂だけでも5,6種類の湯が用意されている。私は一通り汗をかいて体を洗った後、ぬるめの露天風呂に入ることにした。2時間という時間を消費するには、ぬるい湯につかっているのが一番楽だろうと思ったのだ。決して、そこで女児2人が遊んでいたから選んだわけではない。
その風呂には何か黄色いものが浮かんでいた。最初は柚子かと思ったのだが、柑橘系の香りはしない。近づいてみると、それはおもちゃのアヒルだった。ゴルフボール大のアヒルがいっぱい、水面に浮かんでいるのである。ぬるめの湯なので、子供たちが遊べるようにと浮かべてあったのだろう。実際、4,5歳と思われる女児たちはこのアヒルで遊んでいた。アヒルは柔らかい樹脂でできていて、中に空気が入っている。腹の部分には笛が仕込まれていて、軽く潰していやると音が鳴る。私も暇なので、アヒルで遊ぶ女児の微笑ましい姿を観察しつつ、自らも2,3羽のアヒルを弄んでいた。風呂には女児2人と私以外に、私より少し年上の30歳前後と思われる男性と、片方の女児の親戚と思われる40歳程度の男性がいた。
しばらく湯につかっていた私は、あることに気がついた。アヒルの数が減っているのである。私が来た時点で30羽程いたはずのアヒルが、10羽そこらしかいないのである。よく観察していたから間違いないが、子供たちが風呂の外へ持ち出したり、放り投げたりはしていない。ならばあのアヒルたちはどこへ行ってしまったのか。不思議に思った私は注意深く周囲を見渡した。するとどうだろう、30歳前後の男性が体を横たえている辺りの水底に、おびただしい数の黄色いものが沈んでいるではないか。なんとその男性は、手の届く範囲にやってきたアヒルを捕まえては、中の空気を抜いて沈めるという作業を延々と続けていたのだ。沈没させられたアヒルは100を優に超えるだろう。全て浮かんでいれば、水面を半分は埋め尽くせる数だ。それを黙々と沈めている大人、なんというシュールな光景だろう。
私も真似してやってみた。確かに中の空気を全部抜いて水を入れてしまうと、おもちゃのアヒルは風呂の中で沈む。さらに私はそれを一歩進めて、サスペンドアヒルを作ってみた。アヒルの中の空気を微調整してやると、水面まで浮かんでこず、底にも付かない状態で、風呂の中を漂った。水中の流れを可視化できて面白い。
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