「新劇場版 頭文字D Legend1 覚醒」を観て

 これまでのTVシリーズとOVA、それに劇場版を全て観ている私からすると、声優の総入れ替えは残念であるが、それをグダグダ言っても仕方ない。(頭文字Dシリーズは、TVシリーズも含め、制作会社や監督他スタッフがコロコロ入れ替わっている作品なので、その中で声優陣だけが固定されていると、スタッフの意図が反映されにくい、という問題があったのではないかと私は勝手に思っている)

 というか、この映画の問題点は声優の入れ替わりではなく、別のところにある。

 とにもかくにも演出が酷い。

 TVシリーズを観た時に感じた興奮を、この新劇場版1作ではほとんど感じることが出来なかった。一言で言うなら、緩急が足りないということになると思う。例えば、高橋啓介とのバトルでスタート後、最初のコーナーをAE86が凄いドリフトで曲がるところは、重要な見せ場である。これが新劇場版だと、すーっと流れるように場面が終わってしまうのだ。AE86がFDを抜き去るところも同様で、好意的に表現するとすれば、実時間に近い流れになっている、ということになろうかと思うが、それは派手なアクションを連続させる実写映画の演出方法であって、アニメで求められるものとは違うと私は考える。

 演出の悪さの原因を考えると、安易ではあるがまず時間の制約が挙げられるだろう。高橋啓介とのバトルはTVシリーズだと5話までなので、約100分である。それをED含め62分の映画にしたのであるから、あまり余裕を持った時間配分は出来ない。しかしこれは単に、映画の長さを約60分に設定したのが悪いのであって、元々のストーリーには、映像の長さを90分にしようが120分にしようが、埋められる十分なボリュームがあるので、制作費をケチっているだけと言える。

 仮に60分という時間の枠を受け入れても、まだ私にとって不満なのは、セリフと音楽の選択である。私は頭文字DのTVシリーズを複数回、場面によっては10回以上観ているが、それだけ観たいと思わせるのは、印象的なセリフと素晴らしい音楽の組み合わせがあってこそである。しかし新劇場版では、私が脚本担当だったら間違いなく入れると思うようなセリフがかなりカットされ、あまり重要でないものが残されていたり、あるいはTVシリーズとは異なるセリフに置き換えられていた。これでは映像ディスクの購入に至らせるような中毒性は期待できない。音楽も全く印象に残らないものであった。

 加えて、3DCGの出来も優秀とは言えなかった。TVシリーズの1期は確かに今の技術と比べると、ポリゴンの細かさ滑らかさで酷く見劣りするが、カメラアングルは良かったし、2Dの描写である程度補われていた。新劇場版の3DCGで一番気になったのは、タイヤが巻き上げた砂埃の描写である。漫画に近い描写にしたつもりだろうが、きちんとパーティクルを使ってレンダリングするほうがいいと思う。

 私としては、今まで頭文字Dを全く観たことがない人に対しても、新劇場版を観るよりは、DVDを借りてTVシリーズを観ることを勧めたい。

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