「おおかみこどもの雨と雪」を観て

 先日、金曜ロードショーで放送された「おおかみこどもの雨と雪」を観た。素晴らしい作品である。

 この作品の何が素晴らしいかというと、この映画は、無責任な性行為を行った人間が如何に苦しみを味わうことになるか、を観客に伝えている、という点である。あまりよく考えずに観てしまった人は、「感動的な話だった」とか、「理想を描いている」みたいな感想しかひねり出せないだろう。しかし、きちんと流れを汲み取れば、押田守がいかに恐ろしい、そして教訓的なストーリーを展開しているか、ということが分かる。

 観ていない人のためにあらすじを説明する。花という名前の女子大生(冒頭だけね)が主人公で、彼女は大学で出会った男と恋仲になるのだが、その男は実は”おおかみおとこ”であった。しかし彼女はそれでもその男を愛し、そのまま肉体関係を持ち、未婚のまま妊娠し出産してしまう。ところが、花が2人目の子を産んだ直後に、男は事故で死亡。花が産んだ2人の子供は”おおかみこども”で戸籍登録もできず、予防接種も受けられず、近所には犬を飼っていると説明しながら生活するが、ついに耐えきれず田舎へ移住し、ひっそりと生活するのであった……。

 ……地獄絵図とまでは言わないが、どう考えても恐ろしい。

 とくに観ていて怖かったのが、花が1人目の妊娠に気づいた後の場面である。”おおかみおとこ”の男と駆け寄って抱き合いくるくる廻るのである。狂気の沙汰としか思えない。恋は盲目というが、一応は大学に通って熱心に勉強していた学生のはずである。社会的に自立した立場でない、結婚しているわけでもない、しかも相手は”おおかみおとこ”。この状況で手放しに喜べるという神経が、少なくとも私には理解できなかった。ホント、背筋がぞっとした。

 「たまたま”おおかみおとこ”が死んでしまったから大変なことになってしまっただけで、そうでなければ花は順調に幸せを手に入れただろう」というのは大きな勘違いで、たとえ男が生きていようが、未婚の学生が妊娠して半分おおかみの子を産んだ、という状況に変わりは無いのだ。おおかみ要素を取り除いて、未婚の学生が孕んだ、というだけでも、普通なら親族を巻き込んで一悶着である。

 そう、この作品の場合、押田守は”おおかみ”という特集な条件でのストーリーとしつつも、現実世界で生じている現象について問題提起をしていると考えられるのだ。

 私ならもっと悲惨で嘆かわしい終わり方でも良かったと思うのだが、そこは商業作品としての限界だろう。押田守が伝えようとしていたメッセージは、多くの人には伝わらず、ただの感動的な話として受け入れられてしまうのだ。

 さて、あとはグラフィックの話とかを書いておく。3DCGは出来が良いと思うシーンもあったが、全体的に観るとやや過剰であった。本当にこの場面で物理演算まで用いて水玉をCGで描く必要があったのか、というような疑問が何度か生じた。背景画も少し大げさだったように思う。特に雨が最後、山へ行ってしまう場面などは、自然というものを少し誇張して描いているのではないかと感じた。

 あ、あとこれは最後に書いておかなければならないと思うのだが、私はこの映画を観ている途中、ずっと気になっていたことがある。

 「主人公の花が、ヒキガエルにしか見えない!」

 なんか口のあたりがカエルっぽいのである。口を開けた表情など、今にも長い舌を出しそうな感じなのだ。というわけで、カエル好きにはおすすめの1本かも知れない。

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