私は絵が下手なのであまり偉そうなことを書けないのだが、最近、というか前から思ってて最近改めて感じているのは、
「絵が上手いかどうかは描いてるとこを見ないと分からない!」
ということ。数年前から話題のトレパク疑惑のまとめなんかを見てると特にそう思う。
話は少し飛ぶが、私がコンピュータで絵を描き始めた頃、IT系のベンチャー企業でアルバイトをしていたのであるが、そこのデザイン担当でNさんという人がいた。ある時、そのNさんに通常とは異なる仕事の指示が来た。その頃、バイト先の会社が主に扱っていた業務は、企業のサイト制作を下請けすることで、デザイン担当というのもWEBサイトのデザインが主だった。ちなみに私はそのデザイン担当から指示を受けてHTML+CSSのコーディングをする仕事をしていた。で、そのNさんが依頼された仕事というのは、製作中の企業サイトにオリジナルな女の子のキャラクター画像を付加することだった。要するに、「萌え系」のイラストを描けと言われたのだ。Nさんは元漫研か何かだそうで、大学も芸術系のとこへ行っていたように記憶している。まぁ少なくとも、今よりもっと下手だった私よりか、その仕事を受けるのに適任だったことは確かだろう。とはいえ、その頃も気分だけはいっぱしの絵描きのつもりであった私は、Nさんがどんな絵をどうやって描くのが気になり、自分の作業をしながらちらちらとNさんの作業風景を見ていた。上司との会話や機材の準備等を観察するに、どうやらNさんは、つけペンで紙に線画を描いたものを取り込んで、ペンタブを使いつつ色を塗る、という定番のスタイルで描くらしいということが分かった。ところが、だ。Nさんが線画を描き始めたのを見て私は落胆した。なんとNさんは、目の前のディスプレイに美少女フィギュアの写真を表示させた状態で描き始めたのである。それも恐らくは、既成のキャラクターで、既成のフィギュアで、誰かが撮影して、ネットに上がっていた画像である。それをポーズも髪の毛(美少女フィギュアにありがちなあの無重力ヘアだ)もほぼ同じ感じで模写して描いているのである。「あーこの人はあんま上手く無いな」と、生意気にも私はそう思った。フィギュアを見ながら描くのであれば、服のしわや影の付け方もそっくり真似ればいい。顔くらいは自分の作風で描くのであろうが。勿論、仕事であるから速さが求められる。好きなだけ時間使っていいよ、と言われたらNさんは何も見ずに上手い絵を描けるのかもしれない。私は時間かけても描けないが。だが、仕事であるからこそ、デフォルメ度が高い絵でもいいから、オリジナルの構図で描いた方がいいんじゃないかとも思った。もしも、Nさんが描いているところを見ずに出来上がった作品だけを見たのであれば、きっと私は「上手いなぁ」と素直に感心したことだろう。そんなもんだ。
と、こういう事を書くと、模写ですらこれだけケチをつけたんだから、お前は模写やトレースをしないんだろうな、と言われそうであるが、そんなことはない。他人の絵をトレースすることは流石に無いが、自分で撮影した写真をトレースすることはある。背景もそうだし、人物の細かい部分、特に手は写真トレースを使ってしまうことが多い。あと、生物画は基本的にトレースである(描きたい構図と写真が一致していない場合は微妙にラインを変えている)。模写については、何かの絵を見ながら書き始めることは無いのだが、下絵を描いている途中で自分が描いているのと似た構図の絵を探して見ることはある。これだと、誰かさんの絵と構図が完全に同じになるということは無いし、ましてやラインが重なりあう、なんてことにもならない。とはいえ、技術的に言えば何も見ずに描けるのが一番であって、それは実際に描いているところを見ないと分からないのだ。だからpixivなんかでランキング上位に入っている絵を見ても、その絵自体が優れているかどうかは判断できるが、その作者がどれほどの技量を持っているのかは正直分からない。
あと、絵を描くのにかけている時間というのも大事な要素だと思う。同じ絵を一発清書で描ける人と、何枚か下書きをして描く人であれば、前者の方が技術が高いと言えるだろう。プロのイラストレータや漫画家と直接話したことが無いので分からないが、私が考えるプロというのは、「依頼人が望むものを、依頼人が望む時間内で仕上げる」という能力を持った人のことだ。依頼人というのは編集さんのことかもしれないし、読者のことかもしれない。よほどの腕を持っていて、「描きたいものを描いたらお金がもらえる」というプロもいるかもしれないが、絵を描いて飯を食っている人の大半は、依頼主からあれやこれやと注文を受けて描いているはずだ。だから、「描いたらこうなりました」ではなく、「こうなるよう描きました」と言える画力が必要なんじゃないだろうか。とにかく、1枚の絵を見てその人の技術について論じるのは難しいし、ましてやプロとしてやっていけるか判断するのは無理だろうと思うのだ。
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