鍵っ子

 たった今起きたことを書きたいと思う。

 私は集合住宅の1階に行き、洗濯機から洗濯物を回収して部屋に戻ろうとした。そして扉の鍵穴に鍵を差し込んだとき、ふと違和感を覚えた。なんだ?とりあえず鍵は差し込んだが、まず差し込んだ段階での感覚がいつもと違う。毎日何回も繰り返す作業だから、なにかおかしければすぐ気付く。しかも差し込んだ鍵が回らない。あれ、おかしいな…

 「はっ!まさか階を間違えた!?」

 あわてて確認すると部屋番号は20n号!私の部屋は30n!(なお、nは一桁の自然数である)やべっ、本当に間違えたっ!おいおい、20x号の人、在宅中じゃねぇだろうな…ってドアスコープ見たら灯り点いてるしっ!いるよ、在宅中だよっ!

 やばいやばい、早くここから立ち去らなければ、と焦るが問題発生。

 (なんてこった、鍵が抜けねぇ…)

 なるべくガチャガチャやらず静かに鍵を抜いて一刻も早くこの場から立ち去るべきなのだが、普段抜き差しするぐらいの力じゃ全然抜ける気配がしない。どうする?もういっそのことチャイム鳴らして事情を話し、中の人に不安を与えないようにするか?いや、駄目だ。もう既に十分怪しい。どんな人が住んでる部屋か知らないが、女性だったら特にマズい。しかしそれならばどうする?どうやって鍵を抜く?…そうだ、もう静かにやろうなどと考えずに思いっきり力を込めて抜く、そしてダッシュで逃げる。うむ、「抜いて、逃げる」とだけ書くと現状よりかなり怪しくなるが、今はこれしかあるまい。

 「ふんぬっ!」

 と全力で鍵を引張ると、大きな音が立ったものの、幸いなことに鍵は抜け、後ろを確認することもなく、そういや前回本気でダッシュしたのは何時のことだっただろうと思うくらい久しぶりのダッシュで自室へと駆け込んだ。ふぅ…。

 というそれだけの話。

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