Inkscape Tips [1] -中身をぼかす-
執筆日時:2011/03/07
新たに連載スタートのInkscape TipsはベクタードローツールInkscapeを使う上で役に立つ技術を記していきます。主にイラストを描くための機能について取り上げることが多くなるでしょう。1回目は絵に影をつける際には欠かすことのできない「中身をぼかす」フィルタを紹介します。なお、Inkscapeのバージョンは0.48を使用しています。
1. はじめに
GIMPやPhotoshopといった、ラスター画像を扱うアプリケーションで影を塗ろうとする場合、様々な方法があると思いますが、例えばブラシで焼き込みを行ったあと、透明保護をかけた上でぼかしツールやにじみツールで影の境界をぼかす、といった手法をとるかもしれません。しかしながら、Inkscapeで絵に影を付ける場合にはベクターなりの少々異なる作業を行います。ラスターの場合は一枚のレイヤー上でも影を塗ることはできますが、ベクターではオブジェクトの上に影のオブジェクトを重ねることによって影をつけます。
2. とりあえず影を付けてみる
今回は例として円のオブジェクトと、その円の中央をくりぬいたオブジェクトを用意しました。円のオブジェクトがベタ塗りの部分で、くりぬかれたオブジェクトの方が影の部分になります。通常は影のオブジェクトは色を000000(黒)に設定して透明度を調整することで影の濃さを決めていきますが、今回はわかりやすいように緑にしてあります。
この例では影のオブジェクトはもとのオブジェクトの内部をくりぬいて作っているので当然、外側の境界がぴったりと重なっていますが、より複雑な形状の影になる場合は、影を付けたい部分をストロークで囲んだオブジェクトをつくり(土台となるオブジェクトから一部はみ出してもよい)、元のオブジェクトを複製したオブジェクトと重なっている部分だけのオブジェクトになるよう、「パス」→「排他」を使って切り取り、元のオブジェクトからはみ出さない影のオブジェクトを作ります。
3. 普通にぼかす
ここまでで既に影を付けること自体はできているわけですが、影の境界がはっきりしすぎています。そこで次は、影のオブジェクトを普通にぼかしてみましょう。影のオブジェクトを選択し、「フィル/ストローク」ウィンドウの「ぼかし」値を0から5くらいにしてみます。
すると、確かに影の境界にぼかしが入りましたが、土台となるオブジェクトの外周部分の影が薄くなってしまっているばかりか、影のオブジェクトが土台のオブジェクトからはみ出してしまっているのが分かるでしょうか。これではちゃんと影を付けられていることになりません。ここでぼかしたいのはあくまで土台となるオブジェクトの境界内だけであって、影のオブジェクトがそこからはみ出してはダメなのです。
4. 中身をぼかす
そこで「中身をぼかす」フィルタの出番です。このフィルタを使うためには、まず土台となるオブジェクトと影のオブジェクトをグループにまとめます。グループ化はメニューバーの「オブジェクト」→「グループ化」から行います。そしてグループ化したオブジェクトを選択し、メニューバーの「フィルタ」→「ぼかし」→「中身をぼかす」を選択してフィルタをかけます。かけた結果が右の画像です。きちんと内側だけがぼかされて、影が土台となるオブジェクトからはみ出していないことが確認できるでしょう。
5. ぼかしの調整
あとはぼかしの程度をどのように調整するかですが、これは「フィルタ」→「フィルタエディタ」で開く「フィルタエディタ」ウィンドウで調整します。「中身をぼかす」フィルタをかけたグループを選択するとウィンドウ内にツリー上のリストが出てくると思いますが、このうちぼかしの度合いは「ガウスぼかし」の値を変更することによって行えます。デフォルト値が5で、0だとぼかさないことになります。
6. 最後に
「中身をぼかす」フィルタを使って影を付ける作業の概要は以上ですが、このフィルタは単色の影をつけるだけでなく、複雑に色が移り変わるようなグラデーションを表現する時にもつかえます。地図で言う等高線のようなストロークで囲ったオブジェクトを複数配置し、すべてをグループ化してこのフィルタをかけるのです。「ガウスぼかし」の標準偏差値を高く設定する必要があるので処理は重くなりますが、その分高度な塗りが行えます。